5年ぶりにアルバムリリースが決定し注目を集めるXジャパンだが、本誌ではまず、7月にリリースされたシングル「Forever Love」のプロモーションビデオ制作に当たって、ロサンゼルスへオフィシャル撮影に赴いた、本誌で活躍中のフォトグラファー金原誠氏の独占ルポをお届けしよう。Xジャパンに密着したカメラマンはそこで何を見、感じたのか。金原氏自身が現地での模様を熱く語る。


 出立は午前だった。上昇するジャンボ旅客機の旋回とともに、明るい陽光を受けてきらめくロサンゼルスの、だだっ広い街並が俺の視界に広がっていく。
 彼らは今、この街のどこで、何をしていることだろう。つい数日前のことを一人、機上で思う。鮮やかによみがえるXジャパンの五人の姿。ファインダーの中で躍動するYOSHIKIが、TOSHIが、HIDEが、HEATHが、PATAが。

 五年前、俺がニューヨークに住んでいた時分のことだ。正月だった。友人宅で飲んでいた俺の目に日本語テレビ放送の紅白歌合戦が飛び込んできた。ちょうどXジャパンが姿を現し、TOSHIが「紅」を歌い上げた。それが彼らを目にした最初だった。駆け出しの俺が、遠く日本を離れた場所で見たXジャパン。そのオフィシャル・カメラマンとして自分がシングル「Forever Love」のPV(プロモーションビデオ)撮影現場に赴くことになろうとは、夢にも思わなかった。
 6月17日だった。「急な話ですが…」と撮影依頼が舞い込んだのは。
 初めは何が何だか分からない。「エックスって、あのXジャパン?」「L.A.(ロサンゼルス)?」「この俺が?」。大きな仕事だった。頭が真っ白なまま依頼の電話を聞いていた。「6月27日、ロスでXジャパンを撮る」。頭に入ったのはこれだけだ。細かいことは出発までに詰めればいい。
 撮影の前日、大阪から成田に移動した俺は、マネージメントのAさんとデザイナーの二人と合流。一路、ロスへ飛び立った。やる気満々の俺は、隣に座ったAさんを相手に10時間以上のフライトの間、マシンガントークをくらわせてやった。彼女、うんざりしたに違いない。悪かったよ。だが、聞いておきたかった。
 なぜ、俺が選ばれたのかを。
 「多分、あなたの写真のライブ感が気に入ったんだと思うの。いつも写真チェックは一人2百枚ぐらい紙焼きを渡しても、OKが出るのは少しだけ。全部ボツの時もあったんだから」
 俺は日本ではXジャパンのライブを2回ほど撮ったことがある。いずれもこのジェイロックマガジンの仕事だ。俺の撮ったYOSHIKIが表紙を飾ったこともある。別に自慢する訳じゃない。ライブ写真は俺の大きな撮影テーマの一つだよ。
 「あなたの写真はいつもたくさん選ばれるわ」
 Aさんが持ち上げてくれる。Xが認めてくれたのは、もちろんすっごくうれしいさ。でも、俺はいつも俺の写真を撮ってるだけなんだ。

 現地時間26日の昼、LAX(ロス国際空港)に着く。暑い。大阪も暑いけど、その比じゃない。空はバカみたいに青い。実はロスは初めてなんだ。こんなに空の青い街は俺にはなじまないから、絶対に来ることはないって思ってた。赤いステップワゴンでスタッフが迎えに来る。ウエストハリウッドのホテルへ直行だ。俺にあてがわれたのはそこのスウィート。ゴージャスだけど、落ち着かないよ。
 でかい鏡を見ながら考えてた。どんな撮影条件なんだろう。場所は? 光源は? 心配事はたくさんあった。それらの詳しい情報は知らされてなかったんだ。 

 撮影当日。昼下がりにダウンタウンの外れにある撮影現場に到着し、昼飯を食う。そこは巨大なビール工場跡だった。白っぽい箱形の倉庫といった趣で、建物の長辺は優に100メートルはある。歩けば端から端まで2、3分はかかるはずだ。天井から取って付けたような煙突が一本突き出し、そこに「BREWERY」の文字が刻まれている。
 中に入ると、内壁はレンガ造りで、等間隔に上からアクセントライトが照らしている。30人ばかりのPV撮影スタッフは、ほとんどが現地採用のアメリカ人らしい。忙しく動き回り、迫る本番撮りに緊張感が高まっていくのが分かる。もっとも、PVの一部はすでに撮影を終えているようだが…。
 中央のセットに目を吸い寄せられる。建物の天井の高さは20メートル以上だが、そのてっぺんから二筋の白いレースの布がつるされ、ヨーロッパ調の大型ベッドを包み込んでいる。大型のメインライトが天井から鏡を照らし、その光線の行く先は…なんと古風なドレスを着た白人美女がベッドに寝そべっているではないか!
 そこへ俺の所にXの事務所の責任者の人がやってきた。
 「実は室内でのPV撮影の記録の他にオフショットも撮ってほしいんです」
 少し意外だった。屋外撮影を考えれば、用意するフィルムが変わってくる。機材もだ。相変わらず詳細な撮影条件は分からない。行き当たりばったりだが、やるしかない。
 機材を準備し、外の空気を吸いに出ると、TOSHI、HEATH、PATAはそれぞれ自分の車で到着したところだった。ウインドウを開けてAさんらスタッフと会話を交わしている。至ってリラックスムードだ。やがてHIDEも現れ、表に停めてある、それぞれのスターワゴン(ロケ用の楽屋)に集合する。どうやらメンバーがそろって顔を合わせるのは、久しぶりのことらしい。笑い声が絶えない。ただし、スタッフはメンバー到着の知らせに目の色が変わってきた。ま、俺はオフショット撮影でも始めるかな…。
 まずはTOSHIがソロのシーンを撮るのだろう、メインセットから少し離れた場所に移る。それを合図に本日のPV収録が始まった。そのうちにYOSHIKIが合流すると、現場のPVスタッフのピリピリとした緊張感はピークを迎える。
 最初に入った時にはそれに全く気付かなかったのだが、トタンの壁に開けられた無数の針穴から太陽光が線状に差し込む幻想的な空間がセットされ、それをバックにTOSHIは「Forever Love」を高らかに歌い上げる。堂々たるそのカットは一発でOKが出た。おっと俺もボヤボヤしていられない。だれも指示をくれないが、ここでは段取りなんか関係ないに違いない。シャッターを切り始める。俺は自分の仕事をするだけだ。
 ワゴンに戻りかけるTOSHIが、メインセットの横でふと足を止め、スタッフを呼び寄せる。何事かと思うと、カメラを手にセットの写真を撮り始めた。「TOSHIも写真やるんだ」と思うと何だか妙にうれしくなる。
 やがて多くのスタッフに取り囲まれたYOSHIKIがメイクを終えると、いよいよメンバー全員そろってのカットへ。例の寝そべり美女付きメインセットの周りを取り囲むようにリラックスした様子のメンバーが位置に着く。正面から見て一番右にグランドピアノに向かうYOSHIKI。TOSHIはベッドの右前、HIDEはベッドの足下に座り込み、PATAがその左手前でイスに身を預ける。HEATHは左手奥で一人立ち上がる。
 カチンコが鳴ると、外れからカメラクルーを乗せたクレーンがメインセット正面に向かって滑るように寄っていく…。今、テレビなんかでも放送されてる、あのシーンが、これだ。静かなしっとりとしたメロディーとは裏腹に、この撮影現場全体がたぎる溶岩の塊のように熱せられていく。メンバーの一挙一動にスタッフ全員の眼差しが貫くばかりに注がれる。
 ところで、写真撮影についてのおおまかな要望は聞いていたものの、この期に及んでも俺には段取りが示されない。そりゃあ俺なんか二の次だろうけど、ちょっと頭に来た。分かったよ、そのかわり任せろよ。食いついてくだけだ。俺はファインダーを通して、その場のライブ感をそのままに記録していく。あんたらの全部、撮ってやる。
 俺はシャッターチャンスを狙ったりしない。勝手に体が動くんだ。感覚的にシャッターを切る。これ、俺のペース。もうこうなったら、だれを撮ってるかなんて関係ない。俺は俺の写真を撮りに来たんだ。
 撮影の合間はあちこちから笑い声が上がる。俺がニコンのF4を構えていると、TOSHIが近寄ってきた。
 「すごいレンズですね。ちょっと持たせてくれませんか」
 「いいっすよ」と俺。
 「コレすごいなあ。重たくないですか」とレンズをのぞきながらTOSHI。
 本番が始まって休む間もなく撮り続けていた俺は、お陰でちょっとリラックスできた。まだ先は長いんだよな。俺は肩の力を抜いてTOSHIとのカメラ談義をしばらく楽しんだ。
 他のメンバーたちとも、言葉を交わした。ひと言ふた言、撮影のシチュエーションか、なにか。良く覚えていないんだ。HEATHが尼崎出身で、現地の会話に大阪弁が混じるのが面白いな、と思ったくらいの印象しかない。YOSHIKIとは、とうとう最初から最後まで口を利かなかった。でもいいんだ。俺の写真のこと、YOSHIKIは分かってくれてると思うから。
 さて、次のテイクはYOSHIKIのソロらしい。カメラが回り始めると、TOSHIとのツーショットから始まり、次第にYOSHIKIに迫っていく。俺も負けじとクレーンカメラを避けながらシャッターを切る。
 ところがそのカットが終わるやいなや、YOSHIKIがディレクターとたった今撮り終えたばかりのシーンをチェックし始める。数分が過ぎ、YOSHIKIが立ち上がり、再びピアノに向かう。NGだ。それが何度か繰り返される。先ほどまでの和んだ空気がピーンと張りつめていく。どうやらYOSHIKIはカメラの位置が気になっている様子。さらにチーフカメラマンが呼ばれ、納得のいく仕上がりまでさらに打ち合わせは続くのだ…。
 この日の撮影は終わった。YOSHIKIのスタジオへ移動して、どこだかのインタビューに付き合って、ホテルの自分の部屋に帰ったのは午前2時を過ぎてたよ。
 クリエイティビティーに関して、Xのこだわりには尊敬を通り越して驚嘆させられた。自分たちが表出するものはすべて五人が納得するまでOKは出ない。あの完全主義こそ、ニューアルバム発表までファンを5年も待たせたXジャパンらしいプロ意識だと思う。俺、その辺はうなずけるんだ。

 明けて6月29日。何の日だか知ってる? 分かんないよな。俺の31歳の誕生日だったんだ。この仕事はちょうどその記念になったよ。なんか新しいものを発見できたかもしれないんだ。この仕事、やってて良かった。また写真が面白くなったんだ、俺。
 読者もサ、俺は俺の写真撮り続けるから、これからも応援してくれよな。

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