11月21日、ついにhideのアルバムであり、hide with Spread Beaverのアルバムである『Ja,Zoo』が発表される。当初、今回の巻頭企画は冒頭のI.N.A.&D.I.E.のインタビューと、KIYOSHIのソロ活動についてのインタビューの中で少しスプレッド・ビーバーにも触れるだけの予定だった。しかし、アルバムの音が届けられ、それを聴き終わったとき、まず僕は自分のスケジュール調整を始めた。それは残りのメンバーにもインタビューするためだ。何が僕にそこまでさせたのか? それはアルバムを聴いてもらえば分かると思う。正直なことを言うと、アルバムの完成度は文句の言いようがないほど高いのだが、満足度では限りなく100パーセントに近い90パーセントでしかない。その残りの10パーセントは、言うまでもなくhideが持って行ってしまった部分なのだが、アルバムにはそれを埋め尽くす別のものがあり、それは…それが何なのかは、ここにあるインタビューを読んでもらうと分かってもらえるだろう。

I.N.A.(Com&Per) & D.I.E.(Key)

再びスタートしたアルバムレコーディングのすべてのイニシアティブを持っていたI.N.A.、そして怪人軍団スプレッド・ビーバーの1人であるD.I.E.にアルバムの話だけではなく、ツアーについてや、個々のスプレッド・ビーバーに対する思いを語ってもらった。彼らの言葉からはアルバムに注がれている真摯(しんし)な思いやバンドに対する愛情というものが伝わってきたとともに、彼らとhideの関係やバンドのメンバー間の絆(きずな)などもうかがえ、スプレッド・ビーバーというものが決してhideをサポートするだけのバックバンドなどではないことを強く感じさせられる。


●ようやくアルバム『Ja,Zoo』がリリースされますが、hideさんが亡くなったときはこのアルバムをどうしようと思いましたか。

I.N.A.(Com&Per):彼が亡くなったときにはね、曲は全部できていたし、残りの部分もかなりできていたし、ファンや葬儀関係で出会った人達やいろんな人から「ぜひ作ってほしい」って言われてたから、「これは作らなきゃいけないな」っていう変な使命感があったっていうか、わりと早い時期に僕の中でも作ることを決めていましたね。やっぱり「なんとかこれをみんなのところに届けてあげたいな」っていう気持ちが強かった。

D.I.E.(Key):でもね、葬儀とかでみんなが最初に集まったときに…ツアーの話はさすがにその2、3日あとなんですけど、「アルバムは作り上げようね」というのが第一声に近い感じで出ていたんですよ。やっぱり「今、まずやるべきことはそれだな」っていうことをみんなが分かってましたね。I.N.A.ちゃんの大変さは…想像だけですけど、すごいことなんだろうなと思います。でも、I.N.A.ちゃんがやんないと絶対にできないものだから、そこは頑張ってもらって(笑)。

●I.N.A.さんは多くの人の期待を受けてレコーディングを再スタートしただけに、プレッシャーはなかったですか。

I.N.A.:プレッシャーというのは別になくて、精神的なつらさですね。今までは僕がコンピュータに向かっていて、僕の後ろにhideくんがいたから、レコーディングの作業を再開したときに彼がいなくなってしまったことを実感したりしてね。アップダウンが激しかったよ、あのころ(笑)。

●1人でレコーディングをしていて煮詰まったりはしませんでした?

I.N.A.:ある程度どういうものにするかっていうのが見えていたから音楽的には特に煮詰まったりはしなかった。要は精神的な部分だけでしたね。そんなこと言ってもしょうがないんだけど、それが一番つらかったかな。

●再スタートしたレコーディングというのは、hideさんが「この曲はこうしたい」って言っていたことを思い出しながら進めていったのですか。

I.N.A.:制作途中だった部分でも、「これはこういうふうにしたいね」ってかなり話を煮詰めていたんですよ。それを忠実に焼き直して、例えばKIYOSHIにギターを弾いてもらったりとかして、みんなに手伝ってもらって完成にいたったんですけどね。

●曲に対するミュージシャンの選出もhideさんから聞いた通りに?

I.N.A.:例えば「HURRY GO ROUND」だとベースはCHIROLYNでドラムはJOEっていう話をしてたし…あといろんな人に会うたびに「俺も手伝わせてくれ」とか「何か力になることはない?」って言われて、それこそその人達を全員呼んできたらエライことになってしまう状況でもあったんですよ(笑)。だからほんとに”hide with Spread Beaver“の中で作り上げようっていうのと、Pataにも手伝ってもらったのは、やっぱりhideくんのギターのフレーズを世の中で一番多く彼は弾いてるわけじゃないですか。だからどうしてもPataには手伝ってもらいたかった。

●アルバムの方向性もhideさんと話し合っていたものを引き継いだのですか。

I.N.A.:何年も一緒にやってきた中で、特に「このアルバムはこういう方向性でいこう」って決めては作っていなかったから、姿勢ですね。曲を作ったり、完成させていく上での姿勢をそのまんま貫いた。

●では、hideさんが言われてた”サイボーグロック“というのは?

I.N.A.:それは結果としてテーマになった部分があるし…”日本で育ったロック“というのも、やってみた結果としてできたから、「それを言うなればこうだ」って。

●では、すでにシングルとして発表された「ROCKET DIVE」「ピンク スパイダー」「ever free」以外の収録曲についてうかがいたいと思います。まずオープニングの「SPREAD BEAVER」なのですが、SE的にキーボードをパンチしてモデムを接続させた音が入っているのは、スプレッド・ビーバーにアクセスしたってことですか。

I.N.A.:うん。そんなSEを入れたのも最初からhideくんが言ってたことなんで、そのまま音にしたっていうかね。

●この曲ではD.I.E.さんがオルガンを弾かれてますけど、hideさんに「D.I.E.ちゃん弾いてね」と言われていたのですか。

D.I.E.:そうですね。やっとレコーディングの場でもね、コラボレーションできるんだなってすごくうれしい反面、I.N.A.ちゃんもhideちゃんもきっちりと作っていく人達だけど、俺っていい加減じゃないですか(笑)。その場その場で「いいやこれで」みたいな感じだから緊張していましたね。

●この曲に限らずなのですが、スプレッド・ビーバーの曲はテクノロジーが駆使されているだけに、D.I.E.さんの鍵盤の音に人間っぽい温もりを感じるんですよ。

D.I.E.:最近はマニピュレーターができるようなことじゃなくて、逆に人間臭いところでレコーディングとかに呼ばれたりしますね。だから、時代が変わって良かったなと思いますよ。続けてて良かったなって(笑)。コンピュータができる前まではピアノできっちりできることがステイタスだったんだけど、コンピュータできっちりすることができちゃうと、逆に人間っぽさが求められますね。いいときに呼ばれて良かった(笑)。

●「LEATHER FACE」ですが、これはヂルチの曲のセルフカバーになるんですよね。

I.N.A.:そうですね。ヂルチでやったものがバンド色が強くて、ちょっと思っていた部分とは違うところもあったんで、僕らがオリジナルでやったらこうなるっていう。

●この曲を聴けば洋楽と邦楽に違いがないことが分かりますよね。単純に歌詞が英語と日本語だという違いでしかない。

I.N.A.:そうですよね。ヂルチでもhideちゃんの日本語の曲を英語でやっているし、今回ヂルチの英語の曲を日本語でやっているっていう部分でもね。

●また、他の曲ではhideさんがベースも弾いているのですが、この曲ではCHIROLYNさんが弾いていますよね。

I.N.A.:それはね、(L.A.で)「ピンク スパイダー」のプロモーションビデオを撮ったときに、CHIROLYNだけ残って…1週間ぐらいかな? 一緒に遊んでたんですよ。で、「遊んでないでベース弾け」って弾いてもらったんです(笑)。

●やっぱりベーシストのグルーブは違いましたか。

I.N.A.:やっぱりhideくんはベーシストだと自分では言いつつも、ベーシストとしてはかなり異端児だからね(笑)。

D.I.E.:でも、俺、「BREEDING」のベースは好きだな。

●次に「DOUBT」のリミックス「DOUBT '97 (MIXED LE-MONed JELLY MIX)」ですが、「DOUBT」はhideさんが自分自身のアンセムだと言っていただけに、hideさんにとって大事な曲になっていました?

I.N.A.:すごく大切にしていましたね。何かとやりたがるからね(笑)。衝動でできた曲…作り込まなくても曲ができるんだっていう、彼にとっての教科書じゃないけど、それの見本でもあって、これでレコードになるのが3バージョン目なんですよね。メロディーはそのまんまで変わらないけども、色付けでずいぶん変わるんだよってことでもあるのかもしれない。

●D.I.E.さんは、そんな変わっていく「DOUBT」をどう思いますか。

D.I.E.:セルフリミックスみたいな感じですよね。I.N.A.hide職人…リサイクル職人っていうか(笑)、ほんとにカッコいいなと思います。時代に流れるものをしっかり吸収して、ちゃんと自分の曲に取り入れられていて、歌い方もちょっと違ったりしてて…あの上がり下がりがカッコいいじゃないですか(笑)。

I.N.A.:セルフリミックスっていう意味合いもあるんですよ。もともとこの基盤ができたのは去年の『MIX LEMONed JELLY』のライブでやるためで、ちょうどhideの『PSYE-NCE』のリミックス盤が出た直後だったから、「俺が自分の曲をリミックスすりゃこうなるよ」っていう提示でもあった。

●「FISH SCRATCH FEVER」ではコーラスでCRAZEのTETSUさんをはじめ、いろんな方が参加していますが、この曲のレコーディングは楽しかったですか。

I.N.A.:コーラス入れはおもしろかったですね。いろんな人がスタジオに来てくれるから、コーラス用のマルチテープを作っておいて、来る人来る人に入れてもらって…1人で何回もやったりするから、30人分ぐらいのコーラスになったりしておもしろかったです。

●この曲のイントロとエンディングにhideさんとJOEさんの会話が入ってましたけど、これは?

I.N.A.:他の曲で何かやってるときにたまたまテープに入っていて、僕、それをコンピュータにもらって、ドラムのループに乗っけて遊んでたんですよ。そしたらhideくんが「何これ? カッコいい! 使おう」って(笑)。

D.I.E.:今までにないアバウトな遊び方じゃないですか。だからびっくりしましたね。それにまたバランスがデカイから、毎回気になって気になってしょうがない(笑)。

I.N.A.:Pataはね、ギターを録るときにあれをカウントにしてたよ。「『聴こえない』、ワン、ツー、スリー、フォーってのがちょうどいい」って(笑)。

●では、次に「HURRY GO ROUND」なんですけど…。

I.N.A.:あれ? 「BREEDING」は? 

●すみません、飛ばしてしまいました。

I.N.A.:「BREEDING」はD.I.E.ちゃんに。

D.I.E.:「BREEDING」を語らせるとうるさいですよ(笑)。「BREEDING」はレコーディングに行ったときにもうできていて、「LEATHER FACE」と2曲聴かせてもらったんですけど、「BREEDING」のイントロが始まった瞬間に鳥肌が立ったっていうか、ほんとびっくりしてね。

●ギターがザクってきますからね。

D.I.E.:うん、あのミッド・ローのザックリしたギターが始まった瞬間にね…洋楽も含めて、最近聴いてるどんなバンドでもこんなカッコいい鳥肌イントロはなかったな。サビはすごいhideちゃんっぽいところを押さえているし、歌詞も訳分かんなくてすごいですね(笑)。一番衝撃を受けた曲です。カッコいいですね。

●もう「BREEDING」については質問するまでもなく、十分に語ってもらえましたよ(笑)。では、「HURRY GO ROUND」ですが、ボーカルがhideさんじゃないと思ってしまったし、曲調も今までにない異色の曲ですよね。

I.N.A.:それはね、去年の10月に山中湖のスタジオに合宿に行ったときに基本形はできてたんですけど、4月の末に歌詞ができて歌を録る段階でちょっとアレンジを変えたんですよ。歌をメインにしたアレンジに作り直したのが今の形なんです。

●歌のキーも最初から高かったのですか。

I.N.A.:うん、あのまんまで少年のように。

D.I.E.:俺もびっくりしましたよ、最初。「だれの声だろう?」って思った。

●でも、歌い癖がhideさんなんですよね(笑)。

D.I.E.:そうそう(笑)。

●この曲はストリングスがすごくマッチしていますが、これも最初から入れる予定だったのですか。

I.N.A.:ストリングスは歌を録った段階では入ってなかったんですけど、入れることは決まっていて、「斉藤ネコさんにやってもらいたいね」って話してたんで、その言葉のままやってみたんですけどね。で、あのストリングスのフレーズは、去年の曲を作った段階でhideくんが口ずさんでいたものを僕が覚えてて、それを入れたっていう(笑)。

●最後の曲の「PINK CLOUD ASSEMBLY」ですが、これは「ピンク スパイダー」の続編なんですよね。

I.N.A.:詞が「ピンク スパイダー」の続きになってて、詞自体ができてたんで「これは発表したいな」っていうのと、曲の構想もできていたんですよ。「ピンク スパイダー」の後半の部分を使って、D.I.E.ちゃんにピアノを入れてもらってっていうね。要は歌だけ録れてなかった。でも、詞は発表したい。っていうことでリーディング(朗読)したんですけど。その詞を読む人の人選はいろいろ僕も考えて、自分でも試してみたし、だれにやってもらおうかって考えたんですけど、やっぱり僕の頭の中でhideくんの声しか鳴ってないんですね。で、多少声が似てるから弟さんに試しにやってもらったんですよ。使うとか使わないとか関係なしに、「ちょっとやってみて」って。でも、弟さん自身の詞に対する気持ちがすごく入っていていいものが録れたから、「これはこれでいいんだな」と思って。

●この結末は「主人公の蜘蛛はあこがれの雲になって空を飛んだけど、結局空という大きなものの一つにすぎなかった」ということでしたが、D.I.E.さんはどういう気持ちでピアノを弾いたのですか。

D.I.E.:僕はね、詞が入ってる前に、メロディーに合わせる感じでピアノを入れたんですよ。だから、申し訳ないんだけど、そういうコンセプト的なところは演奏には入ってなくて…「YOSHIKIに負けないようなピアノを弾かなくちゃ」って(笑)。これはウソですけど(笑)。

I.N.A.:ある意味、アルバムの中でコンセプトのある曲って、この「PINK CLOUD ASSEMBLY」だけかもしれない。

●だからこそhideさんが言っていたように、1曲ずつが強い個性を持っていて、その印象に残るアルバムに仕上がっているんでしょうね。

I.N.A.:そうかもしれないですね。

●I.N.A.さんはこのアルバムが完成したときはどんな気持ちでしたか。

I.N.A.:完成したのは6月の15日ぐらいで、彼のお葬式の直後からレコーディングを再開して、精神的にも不安定な状態でやっていたし、いざアルバムが完成しても一緒に聴いて喜ぶ人もいないから、うれしいのと寂しいのとですごく複雑な気分になったりとかもして…。でも、今、時間を置いてるからそういうことも平気で言えるようになったんですけどね(笑)。

D.I.E.:きっと終わったときに空を見上げて「やったぜ、俺は」っていう瞬間があったと思います(笑)。それぐらいの達成感はあったと。

●そういう意味では、アルバムが完成したときにhideさんのホームページの掲示板にアルバムが完成したことを書き込んでましたよね。

I.N.A.:(L.A.から)盤を持って帰ってきて、すぐにhideくんの実家にお届けして、そのままメッセージボードに「完成しました」って書いたらパニックになったという(笑)。

●D.I.E.さんはこのアルバムを最初に聴いたときはどうでしたか。

D.I.E.:ヂルチぐらいからそうなんですけど、驚かされっぱなしですね。だから、”光栄“とか”誇り“という感じです。こういう取材を受ける側の人間としていられるとか、一緒にスプレッド・ビーバーのメンバーとしてやってこれたことがほんとにうれしくてしょうがないです。

●スプレッド・ビーバーのツアーがいよいよスタートしますが、ツアーに対する不安はもうなくなりましたか。

D.I.E.:やっぱり歌のことが…自分の曲でもままならないのに人の曲を歌ったりするわけですからね。今までのツアーとは取り組み方も変わってきてるから、そこはみんな「もう一つ頑張んなきゃ」って感じてるんじゃないですか。

●でも、個性の強いメンバーばっかりなだけに1つにまとまると、ものすごく強いものができるんじゃないですか。

D.I.E.:大きなところでガンとまとめてた人がいないから、バラバラになったら大変ですよ(笑)。でも、ツアーも全部そうですけど、ああいうことがあったのは悲しいことなんだけど、それによって分かるものも実はあったりするんですよね。本当に気持ちを分かってくれる人がいたりとか、電話してきても言うことが見当違いで「この人はこんな感じの接し方なのか」とかいろいろ見えてきたことも含めて。ああいうつらいことがあったからこそ、それが乗り越えるパワーにもなっているんだなって思うし。

●I.N.A.さんはどうですか。

I.N.A.:まだツアーのリハーサルに入ってないんですけど、この間のD.I.E.ちゃんのソロのライブを観て安心した部分がすごく大きかったし(笑)、KIYOSHIがやっていたヤツ(マッド・ビーバーズ)のビデオを見せてもらって「これだったら安心だな」と思いましたね。

●D.I.E.さんに関してはKIYOSHIさんも「hideが目指していたのは一大ロックスペクタクルだから、絶対にそういうものにしたいし…でも、ほっといてもそうなるんだよね。なぜかって言えば、D.I.E.ちゃんがいるから」って言ってましたよ(笑)。

D.I.E.:そんなキャラクターじゃないんですよ(笑)。マジメなんですから。

●では、どんなライブが期待できそうですか。

I.N.A.:始まってみないと分からない部分ってすごいあると思うし、今までのツアーも始まってみてからどんどん進化していくというか、形ができていったからね。

D.I.E.:正直言ってね、俺とかCHIROLYNっていうのはネタが割れてるじゃないですか。だから逆にKAZくんとかの正体不明な人が変なふうに変わっていくとめちゃくちゃおもしろいんじゃないかな(笑)。

I.N.A.:あんまり仕込んでやると、逆につまんないものになったりするんじゃないかなっていう気もするしね。ツアーではJOEが見ものですよ(笑)。

●JOEさんは、KIYOSHIさんのツアーでもカメの着ぐるみを着てましたしね(笑)。

D.I.E.:なんかあの人ね、今年になってから変わってるんですよ(笑)。今までは絶対に怒りながら「イヤだよ」って言っていたようなことを…。

I.N.A.:自分から率先してやってる(笑)。

D.I.E.:そうそう(笑)。喜んでる節があったりするから、持っていき方次第だな。

●ツアーではその辺が楽しみですね。今度はスプレッド・ビーバーから離れた部分での活動に注目したいと思います。まず、I.N.A.さんは内田有紀さんのプロデュースをやられていますよね。

I.N.A.:この話は3月ぐらいにあって、hideくんも「そういうところで活躍すれば、スプレッド・ビーバーにもフィードバックされるんだから、絶対にやった方がいいよ」なんて言ってたんだけど、今まで2人でやってたようなことを僕1人でやらないといけないわけですよね。でも、作品のクオリティーを下げたくなかったから、すごく苦労したし、いい勉強にもなりましたね。

●内田有紀さんってかなり洋楽を聴き込んでいる人だけに、一緒にやるかいもあったんじゃないですか。

I.N.A.:あの子自身は自分が聴いてカッコいいと思えるようなものを歌いたいっていうか、「今までアイドルだとか言われていた部分を変えてみたい」って思っていて、自分から何かやってみたいっていう部分があるんですよ。だから、おもしろかったですね。

D.I.E.:でも、I.N.A.ちゃんが女性アーティストのプロデュースをこのまま続けると、ちょっと危ない気がするんだよな(笑)。

●D.I.E.さんはGLAYのサポートを辞めてしまったそうですが、それはソロに専念するためにですか。

D.I.E.:ソロうんぬんじゃなくて、決めたのが5月2日なんですよ。今まで俺は自分の中では「hideちゃんのところで育った」とか「hideファミリーだ」って、そこの船に乗ってる意識があったんだけど、どうしてもスケジュール的な部分ではGLAYという大きな豪華客船になっちゃった船にばかり乗っていて、GLAYの方でもいろいろ「D.I.E.っておもしろい」という声がだんだん上がってきてですね、結構”GLAYのD.I.E.“って感じになってきてたんですよ。で、こっちの船が船長がいなくなって沈没しそうになっているけどツアーをやろうとしているのに、そこと豪華客船との間を行ってまた戻ったりするスタンスっていうのはなんか違うんじゃないかなって。GLAYにいるのは、メンバーとも仲はいいし、新曲も一から一緒に作っていくから作業も楽なんだけど、やっぱりここで白紙に戻りたいなって。

●ある意味で、自分に賭けているところがあるのですか。

D.I.E.:そうですね。どうも甘え症なんでね、甘える保険みたいな場所があるとダメなんですよ。実はスプレッド・ビーバーになった時点で、もしもhideちゃんが「スプレッド・ビーバーをちゃんとしたバンドにするから一緒にやろうぜ」って言ったら、その時点で「俺、やる!」って言うぐらい、いつでもその言葉を待っていたような節があったりするんです。そのスタンスをもっと自分からhideちゃんに見せていれば良かったななんて思ったりもして…だから、hideちゃんがいなくなって、自分がやりたいと思ってることに突き進むべきだなって思ったところもありますね。俺はスプレッド・ビーバーにも賭けているところがあって、今回のツアーだけじゃなくても、メンバーと次につながる何かが見いだせればいいなって。スプレッド・ビーバーでも”KIYOSHI with Spread Beaver“や”I.N.A. with Spread Beaver“みたいな、いろんな形ができたらいいなって思うし、CHIROLYNが最近アコースティックばっかりでライブをやったりしているけど、あれをI.N.A.ちゃんがプロデュースして、みんなでやったら全然違うものができると思うし、そういうことにもすごく興味があったりするんですよね。

●では、そんなスプレッド・ビーバーは自分の中でどんな存在になっていますか。

D.I.E.:すごく未知なもので、今の定義と来年の定義とでは全然変わっちゃうかもしれないですけど、今の段階ではワクワクさせてくれるメンバーであり尊敬できるミュージシャン達と何かを一緒にすることができるし、年齢も近くてみんな子供のようになれて、こんなのって奇跡に近いと思うんで大切にしていきたいなと。やっぱり世代が近いっていうのは重要で、hideちゃんも昔よく言ってたけど、ほんと同級生みたいなときもあったりするし、それでいてお互いを認め合えている不思議な人達ですね。

I.N.A.:僕もそう思います。学校のノリに一番近いよね。個人戦競技もやって、団体戦もやるクラブ活動みたいな感じかな。

●ツアー後のスプレッド・ビーバーの存在に「ツアーが終われば解散してしまうのかな」という不安があったのですが、そういうことはなさそうですね。

D.I.E.:いや、分からないですよ。ツアーで「やっぱりコイツらとは無理だ」って思うかもしんないし(笑)。だからこそワクワクするし、不安だし。

I.N.A.:でも、少なくとも今の段階ですでにKIYOSHIがCHIROLYNとJOEの3人でやったりとか、D.I.E.ちゃんがミッチー(及川光博)のレコーディングでJOEとKIYOSHIと一緒にやったりとか、僕は僕で内田有紀のときにCHIROLYNとかと一緒にやったりして、もうすでに次が始まってる気がする。

D.I.E.:ほんとにいろんな組み合わせができるからおもしろいですよね。それでいてプロフェッショナルなところをすごく持ってる人達だし。俺、他のアーティストのレコーディングでJOEくんやKIYOSHIくんを呼んだのは初めてで、一応主導権握ってやったんですけど、やっぱり全然やりやすいし、すごくプロだなって感じた。

I.N.A.:言いたいことが言える環境でプロの人達と一緒に作れるっていうのが大きいよね。

D.I.E.:その環境があるっていうのは、やっぱりすごいことですね。

CHIROLYN (B)

 

スプレッド・ビーバーの怪人達の中でもD.I.Eと並んで強烈な個性を放つCHIROLYN。実は彼こそがhideの子守役だったらしい。しかし、このインタビューの中には「hideっていう人間のことをひと言で言うとしたら、”邪魔な存在“だった」などの驚くような発言が多々あり、「何もそこまで言わなくても」と思うかもしれないが、そこまで言えるほど彼はhideと精通しているのだ。そして、そんな言葉の裏にはhideとの間にあった深い信頼関係や多大なリスペクトの念が隠されている。


●アルバム『Ja,Zoo』ではhideさんもベースを弾かれていますが、それをベーシストであるCHIROLYNさんはどう評価してますか。

CHIROLYN(B):甘いですね(笑)。でもね、すごくうれしかったのは、俺のベースって俺が弾いたって一発でバレるんですよ。で、友達とかミュージシャン仲間がみんな「『ピンク スパイダー』は相変わらずのベースだね」って言ってくるんですね。でも、「いや、俺、弾いてねえよ」って。だから、すごく彼の中で俺というベーシストを意識してくれてたのかなって勝手な解釈をしてるんですけど。

●hideさんのベースにもCHIROLYNさんのベースみたいな独特なグルーブがありますからね。

CHIROLYN:ありますよね。彼がベースを持つときはタバコをくわえて、大股を広げて、すごく偉そうにのけぞって弾くらしいんです(笑)。「ベースっていうのはていねいに弾く楽器ではない。雰囲気を大事にする楽器だ」っていう解釈なんですよ。いいところをちゃんと見てるっていうか、ベースっていう楽器の鳴らし方? 意外とツボを押さえてるんだなって思いましたね。

●hideさんいわく「ピンク スパイダー」のようなグルービーなベースを弾かせたら神奈川県一だそうですよ(笑)。

CHIROLYN:いや、違いますね。俺、神奈川県民なんですよ(笑)。だから、アイツは2位ぐらいですね。「2位にしといてやろう」って感じです(笑)。

●そんなhideさんが作るベースのフレーズって、やはりギタリスト独特なものだったりします?

CHIROLYN:っていうか、すごく細かいんですよ。ギターと全部ユニゾン(同音またはオクターブの上下での演奏)してたりとかね。でも、俺は決め事っていうのが大嫌いな人なんで、hideに言われることはとりあえず「うん、うん」って言って、リハーサルとかでは目の前で「ちゃんと弾いてるんだよ」っていうことをアピールしとくんですけど、本人がそこから離れて自分の歌に専念したときには、もう全然それを弾いてないんですよ(笑)。それで一番最後の編集のときに「CHIROLYN、全然違うこと弾いてる」って言ってましたね。で、「そう?」とか言ってすっとぼけたまんまヤツとの関係は終わってます(笑)。

●でも、実はhideさんもそれを期待してるんじゃないですか。

CHIROLYN:結局、結果が良ければいいと思うんですね、あの人の思ってることは。

●アルバムの中では「LEATHER FACE」のベースを弾かれていますが、この曲のレコーディングはどんな感じでしたか。

CHIROLYN:とにかくよく分かんないまま弾かされたんで、「カッコいい曲だな」と思って弾いてて…「チョッパーをいっぱい入れてくれ」って言われましたね。でね、I.N.A.くんがコンピュータの前に座ってて、その後ろで俺がベースを持ってるとするじゃないですか。そうすると俺の斜め横にhideが立ってるわけですよ。で、チョッパーのところになったら、もう指揮者のように暴れるんです(笑)。自分の興奮をアピールして、ツボに入るとウオーって叫ぶのね(笑)。あの人、ロスにいると監禁されてレコーディングやってるからストレスたまっていたみたいで、それをこのときとばかりに出してくるからたまんないんですよ(笑)。「お前、邪魔だ」っていうの(笑)。そういう感じでレコーディングしてたんで、何だか分かんないうちに終わっちゃって…レコーディングっていうよりほんと遊んでますね。

●この曲はヂルチの曲のセルフカバーじゃないですか。やはりオリジナルを聴いてベースのアプローチとか考えました?

CHIROLYN:俺、ヂルチの方のテープをもらってなくて…確か1回か2回聴かせてもらったんで、曲がすごくキャッチーだからメロディーは覚えてはいたんですけどね。だから、「あ、これ聴いたことある」って言ったら「ヂルチの曲なんだ。ちょっとアレンジを変えてやってんだ」って。「コイツ、ネタ切れだ」と思った(笑)。でも、後からヂルチのアルバムを聴いたら全部がポップでキャッチーで…ほんと細かいんですよ。でも、しっかりしたメロディーとでっかい流れの中での細かい作業だから、全然細かい感じがしない。これはやっぱりこの人の持ってるセンスなんだろうなって。

●では、そんなhideさんのセンスをどう思いますか。

CHIROLYN:すごいポップな人ですよね。俺、布袋(寅泰)さんもやってるじゃないですか。hideはすごく布袋さんのことが好きで、『GUITARHYTHM』『II』『III』とかほんと大好きなんですよ。それで布袋さんの持ってるポップ性ってあるじゃないですか。hideは「POISON」とか「スリル」とかのポップなものがすごく好きだったし…今回の布袋さんのアルバム『SUPERSONIC GENE-RATION』(以下『SSG』)とhideの『Ja,Zoo』って、キャラが逆になってる感じがする。だから、お互いが意識していた部分があるんじゃないかな。俺もhideのツアーのときには布袋さんを呼んでいるし、布袋さんのツアーのときにはhideちゃんのバンド全員を呼んでいるし、すごく刺激し合ってるものがhideと布袋さんの中にあったと思うし、お互いが好きなんでしょうね。布袋さん自身も1回ライブで、hideが亡くなってすぐのときに「いつもみんなに贈る歌なんだけど、今日はhideちゃんに贈ります」って歌って、自分でウルウルきちゃってて(笑)、この人ほんとに好きだったんだなって思いましたよ。それに『Ja,Zoo』と『SSG』に関しても、時代背景みたいなものと”ざけんなよ“的な世の中に対するアンチなものにすごく似たものを感じるんですよね。これって中学生の心を持ったままこの社会に出ちゃって、そこでアンチなものを感じてるんだと思う。それに一生懸命自分の世界のものをやる勇気? あの力強さに俺はすごく刺激されましたよ。俺ね、曲は書けるんだけど、歌いたかったのにずっと歌えなかった人だったんです。でも、2年ぐらい前から自分も歌うようになったんですよ。そういう意味でも2人にはすごく勇気をもらいましたからね。

●アルバムの話に戻って「HURRY GO ROUND」ですが、この曲でもベースを弾かれていますよね。まず、この曲に対する印象はどんなものでしたか。

CHIROLYN:この曲は演歌でしょう。俺もフォーク演歌の人だから、hideの曲の中で一番好きですね。…最初にテープをもらったときは「だれ、これ?」って思いましたけど。でもそれが、俺が中学か高校のときに録音してた自分の声にそっくりだったんですよ。だから、聴いたときにね、hideって子供のころはニコニコ笑いながら平気で野原をスキップして駆けめぐっちゃう子なんだろうなって思ったから、それに自分の声に似てるっていうことは、俺も野原をスキップできちゃうヤツだったのかなって、またここで教えられましたね(笑)。あと…最後の作品がこの曲だっていうのは、自分がグルッと回れて元に戻れたんだろうなって感じました。ちゃんとひと皮むけて…普通だったら70歳や80歳でなるようなことを、あの人は33年間っていう短い間でまっとうしたんだなって。だから、KIYOSHIがhideをうらやましがってましたよ。同い年なのにグルッと回った彼のことをね。

●この曲でベースを弾いてみてどうでしたか。

CHIROLYN:俺は基本的にこういう曲の方が弾きやすいですね。彼は自分でもベースが弾けるうえで、「これはCHIROLYNに弾いてもらおう」って言ってたらしいんですよ。だからハマったし、すごく楽に…ポンって弾けました。

●では、完成したアルバムを最初に聴いたときの感想は?

CHIROLYN:「10曲入りなんだ。あっ、そこまで『SSG』と同じだ」って(笑)。それをすごく思ったのと…ほんとにいいアルバムだと思いました。ちゃんといろんな色が出てて、渋いものもあるし、すごく心にくるものがあるし、パーンっていうものもあるし、バランスのいいアルバムですよね。やっぱり何も考えてないからこういうアルバムができるのかなって思う。考えてこんなふうにバランスをとるのってできないと思うんですよ。自分の定義っていうものを信じてずっと生きてきたから、こういうバランスのいいもの…奇跡的なものを呼び起こしてるんだろうなって。ピアノ弾きのお嬢さんみたいなロックなんか聴かない人にも「hideちゃんは好き」っていう人は多いんですけど、ほんとそれって人柄だと思うんですよ。

●そういうところが曲に出ていますからね。

CHIROLYN:それがすごいんですよね。俺、hideっていう人間のことをひと言で言うとしたら、”邪魔な存在“だったんですよ。っていうかね、煮えきらない人なんです。言いたいことを言わないし、何かをやってほしいんだけどモジモジしてるんですよ。人を仕切れない。でも、自分が全体を分かってなきゃイヤなんですよ。だから、ガラス1枚のような人だと思います。すごく薄っぺらくて繊細だったから、パンってやると壊れちゃう人だって。前に雑誌のインタビューで「hideはすごい悲しい目をしている。だから俺はここで頑張れる」って言ったことがあるんですけど、それをずっと思ってましたよ。あの人を見てると悲しくなっちゃうんですよ。イライラするし…ほっとけなくなるんですよね。葬式のときにhideのオヤジさんが「あなたには本当に子守をしてもらって…」って言ってましたけど、ほんとそうなんですよ(笑)。でも、その中で自分も楽しんでましたけどね。

●話は変わりますが、スプレッド・ビーバーから離れたところでKIYOSHIさんのマッド・ビーバーズに参加していましたよね。

CHIROLYN:KIYOSHIが俺とJOEを使ったっていうのは、彼が単純にhideのファンだからなんですよ。その大好きなhideが信頼してるドラムとベースを使いたかったんだと思います。俺としてはKIYOSHIから誘われなかったら、自分からはやらないですね。なぜかと言うと自分がやりたい音楽ではないし、自分が進む道でもないから。でも、KIYOSHIが勇気を出して、スプレッド・ビーバーを起こすための初めの第一歩としてこのバンドをやろうって言ったことに関しては、俺自身も「やろうぜ」っていう気持ちになりました。だから、普通ツアーが終わると「終わったー」って悲しい気持ちになるんだけど、このときのツアーが終わったときは、全然そうならなかったんですよ。逆に「あ、始まっちゃった」って感じなんですよね。ほんとにスプレッド・ビーバーの一貫でしかなかった。

●では、その流れを引き継いでスタートするスプレッド・ビーバーのツアーはどんなライブが期待できそうですか。

CHIROLYN:分かんないですよ。一昨年だって全然分かんないで不安のまま始まって、中盤ぐらいで「ああ、こういうライブなんだ」って分かってきたぐらいだから。でも、いつも俺が思うのが…缶蹴りをやってるようなもんだと。それはライブでも何でもなんですけどね。缶蹴りをやるうえでだれかが鬼で、その鬼である以上は必死こいて探してもらいたいと。で、逃げる以上は必死こいて逃げていかなきゃいけない。で、イタズラばっかりする悪いヤツが鬼になったときにはみんな家に帰っちゃったりとか(笑)、そういうドラマってあるじゃないですか。だから、本気でみんなで缶蹴りしたら楽しいんだろうなって。それをやりに行くし、お客さんも本気になって一緒に缶蹴りをやってくれたらいいと思いますね。

●最後の質問になりますが、スプレッド・ビーバーは自分にとってどんな存在ですか。

CHIROLYN:俺にとって…ある意味試練ですね。”試練“と思うと力抜けないじゃないですか。俺にとってはこのバンドは試練で、修行で、これをちゃんとやることによって、ものすごく自分自身の今後の考え方っていうか、生き方が変わってくるんだろうなって思ってます。人に何て言われようと、憎まれようと、ケンカになろうと、自分が思ったことっていうのはちゃんと実行していきたいし、言葉に出してやっていきたいっていうのはすごくありますね。

●そういうことができるバンドですからね。

CHIROLYN:できるバンドでもあるんですけど、一歩間違えちゃうとなくなる場合もあるわけですよね。

●個性が強いだけにぶつかり合いもすごい?

CHIROLYN:すごいですよ、子供の軍団みたいですもん。小学生の集まりですよ(笑)。KAZが入るまで俺が一番年下だったのに「お前ら(怒)」って感じですもん。だから、それは覚悟決めてますんで。


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    hideto23 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()