Photo

RYUICHI

 

売れるための法則を知っている人はいない
どうなるかわからない現状がバンドでやってて楽しい


●ニューアルバム『STYLE』の詞って、私には瞬間的な感情を大切にしているように思えたんですが、自分自身で一番伝えたかったことは何ですか。
RYUICHI(Vo、以下R):今ってボーッとしてるといろんな出来事が起こるから、傍観者になって毎日過ごしても何の不安もないと思うんですよ。でも同時にそんな中で、そろそろ自分達が明日とか未来とか好きな物や嫌いな物を選んでいかなきゃいけないのかなと気付き始めてる時代でもあると思うんです。だからそれを自分自身で選んでいこうよって。その辺が一番言いたかったことに近いかもしれないですね。もしかしたらそこに答なんかないのかもしれないけど、みんなが詞や曲を聴いてそういうものを探そうと思うきっかけになってくれたらというか、何かを誘発するような部分があったらいいなって。俺は今こういうことをこう感じてて、こんなことを選んで、こんなリスクもしょってるんだけどって書くと、その姿っていうかアルバムタイトルでもあるスタイルみたいなものが伝わっていって、「ああ自分もそんな風に生きてみようかな」とかおぼろげにでも思ってくれるんじゃないかなってね。

●確かに今回の詞には、「あれ?」って思わされたり「そうだなあ」と気づかされたりしたことがいくつかありました。
R:ただ今回僕の書いた詞が何かのきっかけになったとしても、みんなが今まで全く気付いてなかったんじゃなくて、たぶんどっかで見てたと思うんですよ。自分の視界の中には入ってるんだけど、世の中が混乱してるし、情報が混乱してるから、たまたま見えにくくなってただけで。それが詞になって飛んできた時に、「ああ」って分かりやすくなるっていうね。

●でも、そういう詞って自分自身がきっかけに気付いてないと生まれないと思うんですけど、常に詞を作るという意識を働かせてアンテナを張ってたり?
R:うん、もう5作目なんでね。1作目の詞を書いた19か20ぐらいの時は、約20年っていう自分の歴史がいくらでも詞を書く材料になってくれたんですよ。でも今は、『MOTHER』を書き終えた日からこの『STYLE』を書き始める日までの一日一日がすごく大事になってきたりするんですよね。今も『STYLE』を作り終えたばっかで、何か書こうと思ってもなかなか出てこないんだけど、出来るだけ早い時期に新しい経験をして、日常に思った疑問とかをノートにちょっとずつ書いていく。すると次の作品を作る時に「俺こんなこと感じてきたんだな」っていうのがすごくあって。それはずっとやってます。突然書き始めようとしても、絶対に苦しんで書けなくなっちゃう。

●詞を作る時もメンバーの意見をどんどん取り入れていくそうですけど、基本にはそういったRYUICHIさんの考えがあるわけですよね。そこに他のメンバーの考えが入ることで、最初思っていたことと違う方向に行ってしまったりしないんですか。
R:いやあ、たくさんありますよね。極端な話をすれば、原曲を持ってきた作者が最初に抱いている世界観とメッセージっていうのは絶対にあるはずで、それを僕がただ感じるままに書いて「こんな詞を乗っけたい」と作者に提示した時点で、絶対ギャップがあると思うんです。それで「じゃあ本当は何を言いたかったの」ってディスカッションしていって、それをまたチューニングしていくわけですよ。そして今度はその二人の中で出来た物を他のメンバーにも見せて、「でも、これはこうなんじゃないか。ああなんじゃないか」って話し合う。それはもうバンドをやっていく上で慣れたものというか。一人でやってるわけじゃないからね。逆に言うと一人でやってる物だろうが、バンドでやってる物だろうが、たぶん完ぺきなものはないと思うし、完ぺきなものがないからこそ、ディスカッションして余分なぜい肉を切り取っていくってことは、すごくいいことなんじゃないかと思う。 ●でも、例えば一人の表現者として「自分だけでやってみたい」なんて思ったり。
R:まあ、あるかもしれないですね。ただ「今どうしてルナシーでやっていたいのか」っていうと、「他の四人が何考えてるか分かんないぞ」っていう部分がまだたくさん残されてるからで。ある時は「何でそんなことになるんだろう」って不安になることもあるだろうし、逆にときめけるような発想もあるだろうけど、そのどうなるか分からない現状が、今バンドでやっててすごく楽しいんですよね。

●詞はどんどん分かりやすくなってきてるし、変わってきてますよね。今後の自分の詞に対して課題ってありますか。
R:曲のイメージで詞の言葉遣いとか、世界観とかがずいぶん変わってくるんで、ある意味ではすごく限定された中で、詞を書いていかなければいけない。なおかつ、物語を作るんじゃなくて自分が歩いてきたことを物語にするわけで、そこにはものすごく生き様が出ていくんですよ。だから自分が毎日ボーッとしてたら、いつか書けなくなっちゃうんじゃないかなっていうプレッシャーはすごくあるんですよね。小説とか絵本とか昔の哲学者が書いた本とかいろいろ読むけど、結局「すごいなあ」と思ってもマネするわけにはいかないでしょ(笑)。だからどう考えても自分が音楽とかけ離れたところで体験したものとかが、重要になってきてる…。だからすごく難しいですね。いつも思うけど(笑)。

●でも、それってボーカリストとしても言えることで(笑)。
R:そう。だれかが好きでその歌い方をマネするっていうのは、もう今さらっていう感じですからね(笑)。やっぱり河村隆一っていうボーカルスタイルがどっかにあると思うし、でもそれを自分で絶対こうなんだっていう風に決めたくもないんですよ。どんどん進化し続けていく。そうありたいと願うからこそ、不安もあるしプレッシャーもあるしね。

●『STYLE』のボーカルが、すごくRYUICHIという人間を感じさせてくれるのは、そういうところから来てるんじゃないですか。
R:う~ん、今回は聴いた時に自分の言いたいことが伝わるようにと思ったんですよ。でも、これがすごい難しくて。歌ってる時じゃなくて、自分が一回録った歌をブースから出てきて聴いた時に「ちゃんと詞が伝えられてるかどうか」ってことをすごく気にしてたんです。「言葉が入ってくるようになったな」とか「感情が伝わってくるようになったな」ってね。要はうまく歌おうと思えばいくらでも歌えるようになってきてるんで、逆に自分の唱法にブレーキをかけて言葉をかみしめてちょっと引くような感じで歌っていくというか。だからやってる時は体温が低い感じでクールなんだけど、聴いてる方には言葉が突き刺さってくるってことがすごく重要だなと思ってた。何か歌いすぎちゃうと「あっ、俺すごく気持ち良さそうだな」とは思うんだけど、今度は言葉が見えなくなってきちゃったりしてね。

●うまければいいってわけじゃないのは、一番難しいところですね。
R:あるビデオで、有名な車を作った人がおじいさんになって「世の中には完ぺきなものなんかなくて、だからこそ人間は進歩して行く。で、それに従わなければいけない」と語っていたんですよ。その「従わなければいけない」というのが僕にはすごい突き刺さってきて。確かに完ぺきなものなんかあるはずがない。でもだからこそ進歩し続けようとするし、それに従うってことは、完ぺきなものはないからとあきらめずに、ものすごく前向きに歩き出してるわけですよ。その辺の強さって言うのかな。それが僕の中には大きなものとしてあって。

●進歩していくということは、『MOTHER』から『STYLE』のように変化するってことも含まれますよね。変わるってことを「売れなくなったら」と怖がる人達も多いんですけど(笑)。
R:ねえ。でも自信過剰なんですかね(笑)。何か40歳になっても50歳になっても歌を歌って飯食ってるような気がしてるんでね。まあ、これからもいろんな時期があって、ルナシーもずっと昇っていくかもしれないし、ある時期から平行線かもしれないし、売れなくなるかもしれない。でも、僕は個人的に「自分は絶対に歌を歌って詞を伝えることを続けていきたい」って思うよりも、自分はそれを求められていく人間なんじゃないかなとどっかで思ってるんですよね(笑)。だからあんまり不安はないですね。売れなくなっても、じゃあ次に売れるものを作ればいいやって。それは絶対これが売れるからって言うことじゃなくてね。僕は、けっして売れるための法則を知っている人達はいないって思うんですよ。例えばものすごいセールスを上げてる小室哲哉さんがプロデュースする人達にしても、小室さんが好きな物を追い求めてやったら時代とマッチしたんだとどっかで信じてるんです。確かに聴きやすい楽曲と、聴きにくい楽曲ってあると思うけど、でも売れるための方法論はだれも知らないはずなんですよね。だから逆にそれをちょっとでも意識し始めたらもう終わっちゃうんじゃないかなっていう。やっぱり自分の好きなものを、時代の中からちゃんとリアルにつかめてるかどうかだけだと思うんですよ。つかめてればそれはたぶん時代と同調すると思うし。僕は結構リアルなことをやってるつもりだから、そんなに恐怖感ってないんですよね。

●“売れる売れない”に関してはうちの読者のページにもよく出てきて、最近特に多いのが「カラオケで歌うために音楽を買ったり聴いたりしてるのがイヤだ」ってものなんですよ。ルナシーの曲がカラオケのために売れてるとは思えないんですけど、自分たちの売れ方についてはどうとらえてます?
R:まあ、こういう風になるだろうなっていう曲作り、詞作り、アレンジですよね。今はそういうものを作ろうと思ってるから幸せだし。でも他のアーティストの人達にカラオケで歌うためにCDを買うファンがたくさんついていたとしても、それはそれでいいんじゃないかなと(笑)。俺たちのファンの中にわずかながらも「カラオケで歌いたいからシングル買いました」っていう人がいたとしても、何かそれはそれでいいかなって思う。
今カラオケって切っても切り放せない状況ですけど、僕もカラオケから教わったことって結構あるんですよ。例えば歌をちょっと歌える人は歌い過ぎて、本人は気持ちいいんだろうけど聴いてる方は何かもうヤダなと思うこととかね。あとお互いを気に入ってる二人がいて、男の子が「DESIRE」を歌ったとするでしょ。彼がなぜそれを選択したかっていうと彼女に対する気持ちだったりして、彼女もその詞を見たときにちょっと気持ちが高ぶってきたりする。そういう自分のリアルな感情と詞がリンクしてる素晴らしさっていうか、「ああ、こういう時に初めて歌い手と聴き手が通じるんだな」ということもカラオケで教えられたりしたんですよね。それにやっぱり詞っていうのはリアルであるべきだし、いろいろな人が感情移入できるすき間が必要なんだとかね。だから何もかも否定するっていうのは良くなくて。まあルナシーのファンがみんなカラオケを歌うためだけに買ってるとなるとちょっと辛いんだけど(笑)、いろんな考え方が出来ると思うんですよ。音楽はもともと自由なもんだから、本当に好きに楽しんでもらっていいし。

●いろんな意見はみんなが真剣だからこそ出てくるものですが、そこにがんじがらめにならずに見方を変えることも知ってほしいですよね。例えばルナシーに限って言えば、東京ドーム前に「あんな広い場所でもファンはメンバーなのか」という意見が来たんですよ。
R:メンバーだって言ってる一番の意味っていうのは、けっしてBGMのように聴いてほしくないし、やっぱり一人ひとりがその曲に対して自分の実体験を重ねていってくれたらどんなにステキだろうっていうのがあるしね。僕の感情だけで歌ってるんだけど、その曲に一人ひとりの思い入れがあった時に出てくるみんなの表情とか熱とか叫ぶ声とか、それは僕には作れないし、そんな目に見えないエネルギーみたいなものをぶつけ合ってその空間自体を作ってるんだということで「ファンもメンバーだ」って言ってるんですけど。
アーティストのカリスマ性っていうのは、アーティスト達の中に飛び抜けた神様がいてってわけじゃなくて、その時に付けていったお客さんの層とか、熱さとか、本当に求めてるかそれとも軽い気持ちかっていう、その辺の度合いによって変わってくると思うんですよ。求め合う力っていうか。そしてそんなものを持ったメンバーがどれだけいるかっていうのが、バンドパワーだと思うんです。だから僕は東京ドームに対して気負いもなかったし、安心して何の不安もなくステージには立てたんですよ。

●そういうファンだからこそ、逆に「大きくなってほしくない」とか「変わってほしくない」っていう複雑な感情も生まれたりしますが…。
R:これもまた音楽を作る方法論に近いんだけど、そういう方法論を知ってるふりして「人がこう思うだろうからこうしてやろう」っていうのはウソのような気がするんですよね。実はファンの子を一番納得させられるのは、メンバー一人ひとりが本気でときめいてる時の表情とか、動きとか、俺だったら歌声とかだと思うんだけど、そこにちょっとでも「あいつらこうやったらいいだろうな」っていうのがあると、その時にときめきがパワーダウンするじゃない。70%とか80%でライブやったら、もう全員がゲンナリすると思う。それよりはずいぶん変わっちゃったけど、今日楽しそうだねっていう何か分からないエネルギーが全体を包み込むっていう方が必要なんじゃないかな。そんな強さがもう何年も前から売れてくるごとに強くなっていくし、求められてることなんだとも思う。

●そのときめくパワーで作ったアルバム発表の後は、ライブですね。どんな風にやろうと思ってますか。
R:やっぱりその時の感情に素直にっていうのが大きいでしょうね。一番素晴らしいのは、伝えられるってことだと思うから、それに向かっての努力はやっぱりしなくちゃいけないなと思って。

●まずは『STYLE』を聴いて、みんながどういう反応をするかですね。
R:もしかしたら、どんな聴き方しても良いっていうアルバムじゃないかもしれないですね。だから本当に好きな人はものすごくのめり込んでくれるだろうけど、何となく好きだった人はもう聴かないって思ってしまうくらいヘヴィなアルバムかもしれない。でも、それが誘発してもっともっとファンだと言ってくれる、もしくは僕達がメンバーだと思える人達が固まっていくというか、僕達に近づいてきてくれるアルバムにはなってると思うんですよね。でも変な話、このアルバムが売れたら面白いですよ。このアルバムが百万枚とか売れると、結構笑っちゃうなあって(笑)。

arrow
arrow
    全站熱搜

    hideto23 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()