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SUGIZO

 

美しいものとみだれたものの間をすり抜けるのが好き
すべてを水に流して自分を真っ白にして出来た音


 

●昨年のドームに関しては、うちの読者からも「あんな大きな場所のライブで、私達はメンバーとして本当に参加できるのだろうか」という困惑した意見がたくさん届いたんですよ。
SUGIZO(G、以下S):そういう問題って昔からあるんですよ。例えば、初めてホールライブをやった日本青年館の時も、メジャーデビューする時も、武道館をやる時もいっつも同じなの。ただ俺にとってライブというのは、俺たちが演奏してファンのみんなが見に来るんじゃなくて、一緒にライブをやっているっていう気持ちなんですね。俺たちとファンとスタッフのみんなが集まって、その場所だけの何かを作ろうとしている、それがライブだという思いがあるんです。それに今いるファンと俺達だけで楽しいライブをするのは簡単だけど、やっぱりいろんな人にどんどん音を聴いてもらいたいし、いわゆるルナシーのファンにももっとデカくなってほしいし、新しいモノを拒絶してほしくないし、そういう意味では常に戦いなんですよね。
否定派意見と肯定派意見のぶつかり合いでどんどん新しくて大きなものが生まれてきているの。だからドームの時もそうなるだろうなと思ったし、だからこそ俺達はドームをライブハウスにしなければいけないと思った。それは俺たちだけのパワーじゃなくて、ファンの子たちの思いでもあったんですよ。だから責任は俺たちにあるけれども、それと同じぐらい重要な役をみんなが持っている。ライブって百人であろうと、1万人であろうと、それが1人欠けただけで違ったライブになると思うんですよ。それぐらい一人ひとりの“気持ち”とか“魂”とか“思い”っていうのは重要だと思うし、それを大事にしたかった。だから逆に今、いくら大きな所でライブをやっても、俺達とお前達の“友情”ってのは変だけど(笑)、何か求める思いがあれば、絶対にどこでもライブハウスに出来ると思いますね。


●物理的な距離は、もう超越してしまったと。
S:だって俺、渋公だって目が悪いから見えないもん(笑)。目が悪くたって感じられるじゃない。大げさだけどベートーベンは耳が聴こえなくても、音楽を作ってたじゃないですか。だからそういうもっと感覚的なつながりを大事にしないと。俺たちは東京に住んでて、全国のファンのほとんどとはいつもは会えないわけだからね。遠距離恋愛じゃないけど、そんな気持ちでいるわけで、そう思うと日常的な距離って問題じゃないような気がする。

●それをあまり意識しすぎるとアーティストって何にもできませんよね。
S:そうですよね。逆に一つの場所にずっととどまってグルグルやって行くのならいいかもしれないけど、やっぱりやるからにはどんどん広がっていきたいしさ。すごく難しい問題なんですけどね。

●このドームや『MOTHER』ツアーの経験って、当然ニューアルバムの『STYLE』に生きてると思うんですが、僕の印象では特にライブ感覚を意識的にアルバムに詰め込んだのかなと感じたんですよ。
S:それはメンバーごとに全然違うと思いますけど、俺は、むしろ全くそれはないです。もちろんライブでのテンションとか、精神的な行動とかは重要だと思うんで、出来るだけ激しさとか、グルービーな部分はパックしたいんだけど、逆にライブの音像ってのを信用してないですからね。だって、いいニュアンスとか、すごく気に入ったプレイが出来たとしても、それがどこまで通用するかといえば、そういうもんじゃないと思うんですよ。ライブってもっと大きなものだから。だからレコーディングとライブは切り離して考えています。

●今回のアルバムに対してはもう一つ“変化”というものを感じて、それを面白がっているんですね。でも逆に『MOTHER』がすごく評価されたアルバムだから…。
S:大丈夫かなと(笑)。最初は自分にとって『MOTHER』というアルバムがすごい怪物だったのね。例えばあれが5万枚しか売れなかったとしても、内容、クオリティー、表現したい部分が、すごく出来たアルバムだったんで、やっぱり同じように考えていたと思うんですよ。だから今回、あれが一番のライバルだったんです。プレッシャーもあったし、「『MOTHER』を越えなきゃ」という脅迫観念がすごくあって。同時に「シンプルにしなきゃ」というのもあったし、とにかくいろんな目標が最初にあったから、実際にレコーディングに入ったら、そういうもので自分ががんじがらめに委縮しちゃって、何にも作れなくなっちゃったんですね。ものすごくドツボにはまったの、今回。物が作れなくなっちゃって、「もういいや。どうでもなっちまえ」って途中で全部捨てたんですよ。
 良く言えば“吹っ切れた”、悪く言えば“諦めた”(笑)。「『MOTHER』がどうのって関係ねぇや。何にも考えずにやろう」と思ったし、「シンプルなものを作るって公言したけど、入れたい音は入れたいんだからいいや」と思ったしね。だから、すべてを一回水に流して、自分を真っ白にしたのね。その途端すごく楽になって、たくさんインスピレーションがわいて出来た音なの。でも、それに気付いたのがレコーディングのかなり末期だったんで、忙しくて押したけど(笑)。

●なるほど(笑)。
S:でも、言われたとおり、今までの部分というのはかなり捨てましたね。大事に大事にしていた部分を愛し過ぎちゃうと守りに入っちゃうし、そういうのはつまんないしね。ある意味で「どうなってもいいや」ってなっちゃったんだけど、逆に今思うとそれが自信だったのかもしれない。単純に『MOTHER』より1年半は時間が過ぎていて、その間すごくいろんな思いをしてきたし、いろんなものを吸収してきたし。それで何も考えずに自分を出せば『MOTHER』以上のものが出来るに決まっているから、「どうでもいいや」って思ったの。それが良かったのかな。

●そういう自信は昔から持っていた?
S:俺、自信がすごくあるときもあるし、だれよりもないときもある(笑)。俺は特にそうなんですけど、今までは完ぺきなビジョンがあって、イメージがあって、行き先の光がちゃんとあって、それを追いかけて歩いていくんだけど、今回は初めて出来上がるまでアルバムの顔が見えなかったんですよね。だから、最後まで本当に「これで大丈夫かな」という疑問があったけど、何かに導かれるままやってきたというか、手探りで糸をたぐり寄せてきたような気がするんですよ。

●音も表現も「荒削り」な感じでザラッとして、原石みたいに感じるんですけど、そういう原点に行こうという意識ってありました?
S:…原点よりも、リアルなものというか、手触り感とか、質感とか、感情の伝わり方というのに、幕がかかってない裸のまま状態。怖いものも、捨てるものもない、服を着る必要がないというような一番裸の感情を出すことに成功したというかね。別にやっているときは、いつもの通りやっているだけで、そんな執着はなかった。ただ、ニュアンスの方を大事にするようになって、カッチリしたプレイよりも「気持ち良いニュアンスだからいいじゃん」というジャッジの仕方をしてて。でも結果的にそう聴こえたのは精神的に裸になったし、頭を使うのを途中で断念したからかもしれない(笑)。

●(笑)「荒削り」と言った中には、ギターが今まで以上にひずんだ音でザクザクとリズムを刻んでいるように思えたからなんですけど、二人のギタリストにそういう意識は?
S:INORANにはあったと思いますね。俺はそれよりも曲を生かすための存在だったり、クリエイターとかプロデューサーみたいな人だと思うんですよね。その人がプレイヤーとしての自分に、ギターを弾いてもらっているというところがあって…。それは曲が求めるんですよ。今回は「グルービーなものがほしいんだ」と曲が言ったから、そういうプレイになったと思うんです。もちろんそのグルーブという意味でのリズムって、昔と比べたらすごく自分の中での重要さは増えてきているんですけど、でもそれは意識したものではないんですよね。

●それだけにバンドとしてのリズムの一体感が、今までの中では一番濃厚になりましたよね。
S:それは俺も思いますね。それに何と言っても真矢とJのプレイヤーとしての力量がものすごく上がってきてますよね。やっぱり二人のリズムの強力なビートが変わってくると、いい意味で自然とギタリストも変わりますよ。逆にどんなにギターが良くてビートを引っ張ろうとしても、タイコとベースがヤワだったら絶対にそう聴こえない。だからギターがそう聴こえるのもタイコとベースのお陰のような気がするし、バンドのプレイヤーとしてのみんなの成長があると思いますね。

●ギタリストのSUGIZOさんってクリーントーンやロングトーンとか、それこそいろんな音色でプレイするんですが、プレイしてる音色によってその時々の心理状態って違うと思うんですね。例えばロングトーンを弾いている時ってどんな気分ですか。
S:引っ張って、引っ張って、引っ張ってよだれが出ちゃうような気持ち(笑)。その時は空を飛んでいるような感じ。でも、引っ張ってないと落っこっちゃうというか、ターってジャンプしているだけ。実際は飛べなくて力尽きると落っこちる。その飛んでいる状態を出来るだけ引っ張っていたいという。そういう気持ちになるときが多い。

●じゃあ体にも力が入っていたり(笑)。
S:するし、結構変なポーズで弾いている。でも本当に気持ちいい時は体は全く力んでない。感情と指と弦とアンプがちゃんと一致したときは、体が音の一部になっているような気がして、そうなった時は絶対にうまくいく。逆に自分で「弾いているな」って思う時や楽器が自分の体の一つになってない時はダメですね。

●じゃあ、ひずんだダーティーなサウンドでリズムを刻んでいる時は?
S:グイグイ腰をグラインドさせているような気になりますね(笑)。飛んでいる気持ち良さと、地べたにベターっと張り付いてがんじがらめになっているサディスティックな気持ち良さの両極端があるような気がします。

●よくフレーズの中でエフェクターでピッチ(音程)を過激にアップダウンさせますけど、そういう時は?
S:とにかく突き抜けたいときにしますね。感情を表現する音が足らないときに、もっと行きたいときにウワ~ン! ってやると痛いところにガーンって入ってくるみたいな、かゆいところに手が届くみたいな(笑)。

●じゃあクリーンなアルペジオの時。
S:音のひと粒ひと粒がすごくおいしそう(笑)。うまく言えないけど、食べたくなっちゃうような触感。ナイフのようなときもあるし、泡のようなときもあるし、消えちゃいそうだけど実は一番強そう。とにかく弾いていて気持ちいい。

●SUGIZOさんってノイズにもすごく関心があると思うんですけど、曲を作る時って表面的な過激さよりも、その中にある美しさにひかれているってことないですか。
S:例えば「TRUE BLUE」は本当はノイズだらけなんですよ。ノイズをたくさん重ねると自然にそれが浮遊感とかキレイに聴こえたりして、感情が行っちっゃてて音程にならないという感じなんですね。歌うんじゃなくて叫んでいるような。ライブでもそうなんですけど、すごい自分がブワァーンと高まってしまうと、もうチマチマしたフレーズなんて弾いてられないんですよ。もうかきむしるだけ。その感覚がすごく好きで、時にはそれがすごい美しく感じたりもするしね。逆に研ぎ澄まされたすごく繊細でクリーンなんだけど、それが一番ナイフみたいにとがって血のにおいがするような暴力的に感じる時もある。“美しい”ものと“みだれた”ものって対極にあるようで、実は背中合わせのような気がするんですよね。だから、その間をすり抜けるのが好きみたい。ノイズまくりの曲なんだけど、それがすごくキレイな曲だったりとか、すごいヘヴィな曲なんだけど、クリーントーンがカツンって入って来てキレイに聴こえたりとかね。

●『STYLE』にはそんな感情があふれるほど詰め込まれているわけですね。今回ソングライターとしてはどうでした?
S:自分にとって一番新しかったのは1曲目ですよね。あれはいい意味であんな風になったけど、実はもっと50年代や60年代のオールディーズのスタンダードナンバーっぽくしようと思ってたんですよ。それでいろいろ試みたんだけど、全く曲が受け付けなくて。俺が書く曲って二面性があるんですよ。本当に自然に生まれてくる場合と、実験クン的な気持ちから出来る曲(笑)。「こういうこと試してみたいなぁ」って思っているうちに自然に出来るんだけど、例えば今回のこの曲もそうだし、「1999」って曲もそうだし、前でいえば「CIVILIZE」とかもそうなんですけど。現代音楽の作曲家っていろんなアプローチとか挑戦しながら曲を書くじゃないですか。そういう部分に近い。逆にメロディアスの曲とかは自然にわいて出てくるんですよね。

●でも、この曲を1曲目に持ってくるのもすごいですよ。
S:すごいですよね(笑)。別に深い意味はなくてたまたまなんですけど、いまだに「いいのかなぁ」って思ってます。俺は本当は「G」から始めたかったの。「いきなり入ったらカッコいいじゃん」って。でも「それよりも、面白いことやろうよ」って声が多くて。

●ルナシーのサウンドやSUGIZOさんのアプローチには、すごく映像的なイメージが同居しているんですよね。だから将来は映画音楽とかの方向に行きたくなるんじゃないかと。
S:分かられておりますねぇ(笑)。俺の夢ですね。いつかサントラはやりたいです。

●例えばどんな映画の音楽をやってみたいですか。
S:一番好きなのは「ブレードランナー」、それとか「2001年宇宙の旅」みたいなSFモノも好きで、最近では「ストレンジ・デイズ」とか「セブン」。いわゆる日常的なものでは出来ないですよね。

●単純なラブストーリーは辛い(笑)。
S:一番挑戦かもしれないけど、結構苦手で、どっちかといえばトリックものの方がいいし、あと坂本龍一さんの「戦場のメリークリスマス」とか好きだし、フランス映画なんかいいですね。時代劇はイヤですけど(笑)。

●でも「ブレードランナー」はいいかもしれないですね。
S:「ブレードランナー」のサントラは大好き。俺みたいなとがっているミュージシャンが自然にやった音がサントラには合ったりしますよね。最近ほとんど海外のサントラって、そういうミュージシャンのオムニバスが多いし。例えば「クロウ」とか「ナチュラル・ボーン・キラーズ」とかそうだしね。サントラは最近面白い。やっぱり映画音楽は好きだな。

●じゃあ、今後を楽しみにしてますね(笑)。
S:ゴットファーザーみたいなテーマを作りたいですね(笑)。

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